ある休日、メディオンは午睡を楽しんでいた。
 休みの前の晩には、つい夜更かししてしまう。何をして、なのかは言うまでもないだろう。それで翌日が晴天だったりすると、寝不足なのも忘れて二人で朝から外に出たりする。
 結果、午後になって猛烈に眠くなる、というわけだった。
 メディオンの傍らには勿論シンビオスもいて、今、彼はメディオンの腕を枕にして寝ている。
 ふと、メディオンはうたた寝から醒めた。
 随分寝たような気がするが、外はまだ明るい。時計を見ると3時少し前だから、1時間ほどしか経っていないことになる。
 もう少し眠ろうか、と、メディオンはシンビオスを腕に抱いたまま、体を横向きにした。それにつられたのか、シンビオスが抱きついてきた。猫のように、メディオンの胸に頬を擦り寄せてくる。
 メディオンも、緩やかにシンビオスの体を抱いて、柔らかい髪を頬に受けた。そのまま目を閉じる。
 こんな、なにをするでもなく過ごす時間が、メディオンは好きだった。
 それに、いつも忙しいシンビオスを、休みの日だけはゆっくりと休ませてやりたい。
 これまでのシンビオスは、『昼寝』を非生産的だと思っていたようで、休みの日にも普段と同じ時間に起きて、仕事はしないまでも、難解な本を一日中読んだりしていたらしい。
 これでは、疲れが溜まって当然だ。
 フラガルドに滞在するようになったメディオンは、シンビオスの休日の過ごし方に、あからさまに反対はしないまでも、違う方向へと導くようにした。
 読書するにしても一日中ではなく、1時間もしたら散歩や剣の稽古に誘ったりして運動させる。前の晩からよく眠っていないから、昼食を採ってお腹が一杯になれば、自然と眠くなる。
 それでも最初は、シンビオスは眠らずに本を手に取った。疲れてるときに読んでも意味がないんじゃなかろうか、と思いつつ、メディオンは黙っていた。ただ、ベッドを借りるよ、と断わりを入れておいて、自分は昼寝することにした。
 起きたときには、シンビオスも横で寝ていた。
 後で訊いたら、読書しているときにどうしようもなく眠くなったという。
「で、ベッドを見たら、王子が気持ち良さそうに寝てるでしょう? なんか本を読んでるのが馬鹿馬鹿しくなって」
 メディオンの隣に寝転がって、そのまま一緒に昼寝したというわけだった。
 以来、昼寝の気持ちよさにすっかりハマったシンビオスであった。----ただ眠るのではなく、メディオンにしっかりしがみついて寝るのが心地いい、という。メディオンも勿論それに異存はないので(むしろ願ったり叶ったり)、いつでも今日のように寄り添って昼寝している。
 更に1時間過ぎた。
 再びメディオンは目を覚ました。スッキリした気分だ。また眠ってしまっては、夜に眠れなくなるだろう。それでは明日に響く。このまま起きることにした。
 自分に抱きついて眠っているシンビオスの腕を、そっと外す。
 すぐに、また廻された。
 もう一度外す。また抱きついてくる。何回かそうしているうちに、シンビオスが目を閉じたまま笑い出した。
「…起きてたんだね?」
 メディオンが苦笑する。
「普通、すぐに気がつきませんか?」
 シンビオスは笑いながら、メディオンの頬に自分の頬を当てる。メディオンも笑いながら、シンビオスの唇に何度も短い口付けをした。
「…ん、もう起きるんですか?」
 そう言って、シンビオスはメディオンの胸に頭を乗せた。
「これ以上眠ったら、夜に寝られなくなるよ」
 その髪を撫でて、メディオンは答える。
「もう眠くないです」
 シンビオスはメディオンの喉にキスして、
「----ただ、もう少しこうしていませんか」
「そうだね」
 メディオンは再びシンビオスの体に、優しく腕を廻した。
 お互いの体温を心地よく感じながら、二人は正に『何もしない幸せ』を、のんびりと味わっていた。


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