実はメディオンは相当人が悪いのではないか、とシンビオスは時々思うことがある。
 優しくて紳士的なはずなのに、時折別人のようになる。
 ----まさに、今。
「----だ、駄目ですよ、メディオン王子…」
 メディオンの肩を押し戻そうという無駄な努力を続けながら、シンビオスは潜めた声で言った。
「『駄目』って、どうして?」
 メディオンの声は、シンビオスの耳元で響いている。
 初冬の陽は早く落ちて、すでに部屋には灯りが灯っている。夕食前の中途半端に空いた時間。
 ソファの上で、小柄なシンビオスの体は易々とメディオンに組み敷かれている。シンビオスの唇に、紅くなった頬に、耳に、首筋に、メディオンは気紛れに唇を落として、手の方もアヤしい動きをしている。
「ど、どうして、って…」
 メディオンの質問自体と、加えて唇と手の動きに戸惑いながら、シンビオスは律儀に答えた。
「だって、明るいし、ソファの上だし…」
 メディオンは一時行為を中断してシンビオスを見ると、にっこりと微笑んだ。
「じゃあ、明るくなくて、ソファの上じゃなきゃいいんだ」
「----え」
 笑顔に見とれて反応が遅れた。気付いたときには、メディオンに抱き上げられていた。
「え、え?」
 隣の自室まで運ばれて、ベッドの上に静かに落とされる。
「ちょ、ちょっと、おう----」
 言いかけた唇を、唇で塞がれる。
 小柄なシンビオスの体は、再び易々とメディオンに組み敷かれた。先ほど中断された行為を再開される。
「ここでなら、いいんだよね?」
 メディオンの、少し笑いを含んだような囁きが耳からするりと入り込んで、シンビオスの脳を白熱化させる。
「----それとも、やっぱり嫌…?」
 同時に、指がシンビオスの一番熱いところに到達して、----嫌がるどころではなくなった。
 ----やっぱり、王子って人が…----
 ちらりとそんな考えが頭をよぎったが、それも一瞬で、シンビオスはすぐに何も考えられなくなっていった。

 上気したシンビオスの頬にメディオンは手を触れて、すぐに優しいリズムで頭を撫で始めた。シンビオスがぼんやりと見上げると、
「そんな眼で見たら駄目だよ、シンビオス」
 メディオンは小さく笑った。
 ----『そんな眼』って、どんな? そもそも、『駄目』ってどういう意味だろう?
 そんなことを考えながら、シンビオスはじっとメディオンを見つめ続けた。
 メディオンは楽しげに溜息を一つ吐くと、シンビオスの頭を抱き寄せた。
「だから、----もう一度襲われたいのかい?」
 耳元で囁かれて、しかもそんな内容だったから、シンビオスは首筋の辺りがぞく、っとした。勿論、否定的な意味ではなく。
 体の震えが伝わったのだろう。メディオンは堪えきれなくなったかのように、喉の奥でくくっ、と笑った。
「君がそうしてほしいなら、私は構わないよ」
 ずるい、とシンビオスは思った。仕掛けてきたのはメディオンのくせに、いつの間にかシンビオスのせいになっている。
 ----でも、悔しいけど、ぼくも望んでない、わけじゃないんだよな…
「どうする? シンビオス…」
 メディオンの唇に自分の唇を押しつけて、シンビオスはその甘い問いかけへの答えを示したのだった。


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