今日はとてもいい天気だ。
 こんな日に一日中屋内にこもっているのも勿体無い。シンビオスは領主の権限を行使して、午前中に仕事を終わらせた。メディオンと、町外れの公園に出かけることにする。サンドイッチやパイなどの軽食や、お茶も持っていく。
 こんな時間に公園に来ているのは、やはり親子連れが多い。少し枯れ始めた芝生の上を子供達が元気よく駆け回り、殆ど葉の落ちた木の下に座って、親達はそれを見守っている。
 盛んに手を振ってくる子供達に、自分達も振り返しながら、シンビオスとメディオンはゆっくりと公園の中を散策した。
「----今日は暖かいね。昨日までの天気が嘘みたいだ」
 薄いうろこ雲が浮かぶ青天を眩しそうに見上げて、メディオンが言った。この数日間というものスッキリしない天気が続き、おまけに気温も低かったので、温暖な帝国の気候に慣れている彼にはちょっと辛かったのだ。
「でも、これからどんどん寒くなりますよ。覚悟しておいてくださいね」
「大丈夫だよ。----君がいれば充分温かいからね」
 メディオンの悪戯っぽい言葉に、
「ぼくは暖房具ですか?」
 シンビオスはちょっと笑った。
「----あ、あそこにしましょうか」
 二人は遊歩道から、日当たりのいい芝生の中に足を踏み入れた。公園の奥の方なので、あまり人も来ない。静かな場所だ。
 敷物を広げて、食べ物を並べる。かさばらないように、と小さめのものにしたので、それだけで場所が無くなってしまった。自分達は直に芝生の上に腰を降ろす。
 時折吹きすぎていく風が気持ちいい。
 シンビオスがお茶を注いで、メディオンに渡す。メディオンは小さく礼を言って受け取った。
 二人は始終のんびりムードのまま、お茶を飲んだり食べ物をつまんだりした。無言だったが、その沈黙が却って心地いい。言葉にしなくてもちゃんと解っている感じ、とでもいおうか。言葉など必要無いほど、二人の心は通じ合っている。
 あの悪夢のような戦いを過ごしてきた身にとっては、こんななんてことのない日常が、本当に特別なものに思える。今後どうなるのか、まだまだ不安の中にいるけれど、だからこそこういう日々を大切にしたかった。
 かなり時間をかけて食事をしたので、お腹の方もすっかり満足した。秋とは思えないほど暖かい陽射しに、眠気を催す。二人は殆ど同時に欠伸を漏らした。顔を見合わせて笑い合い、その場に寝転がる。
 ゆっくり流れていく雲を眺めていると、自分達の背中にある大地の方が動いているような感じがする。聞こえるのは鳥の声と、遠くから響く子供達の笑い声。秋特有の、紅茶葉のような薫りが風に乗って流れてくる。
 いつしか二人は眠りの海を漂っていた。それはとても幸せで、心安らぐときだった。


HOME/MENU