「メディオン様、コスプレって好きですか?」
 何の前触れもなく恋人にこんなことを訊かれて、メディオンは飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。
「----シ、シンビオス。一体、なんの話だい?」
 メディオンの動揺を知ってか知らずか、シンビオスは無邪気に彼を見つめて、
「ぼくは知らなかったんですけど、特別な衣装を着ると喜ぶ男の人がいるそうですね? ジュリアンが教えてくれました」
 ----…ジュリアンめ。なんてナイスな…、いやいや、いつも余計なことをシンビオスに吹き込むんだから。
 シンビオスがあまりに純真なため、からかったり逆に色々教えたりして、そのリアクションをジュリアンは面白がっているのだ。
 別に、メディオンとシンビオスの仲を邪魔するつもりはないらしい。むしろ、けしかけてさえいた。それは、過保護な忠義者のダンタレスを、やきもきさせたいがためのようだ。そういう、人が悪くそれでいて憎めないところが、ジュリアンにはあった。
 それはともかく。
「…ね、メディオン様はご存知でしたか? コスプレ」
 シンビオスが続けて質問してきたので、メディオンは我に返った。
「あ。ああ、知っていたよ」
「お好きですか?」
「…嫌いではないが…」
 それほど好きでもない、とメディオンは続けようとしたのだが、シンビオスが先に、
「そうですか…」
 と、何故か妙にもじもじして、
「じゃあ、メイドさんと看護婦さん、どちらがお好きですか?」
 今度こそ、メディオンは気が遠くなりかけた。
「…なんだって?」
「この二つが人気が高い、ってジュリアンが言ってたので…。ちなみに、ジュリアンはメイドさんが好きだそうです」
 ジュリアンの好みなどメディオンはどうでもよかった。それよりもメイドと看護婦、というのが気になった。他にも色々あるではないか。バニーとかネコちゃんとか。いや、更にそれよりももっと気になるのが…。
「そんなことを訊いて、どうするつもりなんだい? シンビオス」
 シンビオスは耳まで紅くなった。消え入りそうな声で、
「…メディオン様が喜んでくださるなら、やってみようかなって…」
 なら、バニー! などとは、メディオンは言わなかった。なんだかシャレにならない気がしたのだ。ハマって抜けだせなくなりそうな予感が。理性的な、ある意味勇気のない自分を、メディオンはちょっとだけ呪った。だが、もしシンビオスが…。
「…君はそうしたいのかい?」
 メディオンは優しく訊ねてみた。
「判り…ません。でも、なんだか恥ずかしい気もします」
「なら、無理してすることはない」
 メディオンはシンビオスを腕の中に包み込んだ。
「第一、君はそのままで充分魅力的だよ、シンビオス」
 その表情が、仕草が、声が、…総てがメディオンを虜にするのに、シンビオスはまったく自覚していなかった。そこがまた、可愛くて仕方がない。
 メディオンはシンビオスの顎をすくい上げた。
「メディオン様…」
 頬を染めて、潤んだ緑の瞳で見上げてくるシンビオスに、メディオンは口付けた。----キスだけで済まなかったのは、言うまでもない。


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