男が男を『色っぽい』と思うのはおかしいだろうか。 シンビオスは、どうしてもメディオンのことをそう見てしまう。 初めて会ったときだ。メディオンの、無骨な胸当ての下から覗く締まった腰とか、長い脚全体を覆うブーツが腿に付けるラインとかが、シンビオスには妙に色っぽく感じられた。 更に、不思議な光を湛えた瞳に優しく見つめられ、端正な顔に刻まれた笑みを見ているうちに、シンビオスはすっかりあがってしまって、自分が何を言ったか覚えていなかった。 ただ、メディオンが、「君とは気が合いそうなのに、時間がなくて残念です」と言ってくれたのだけは、しっかりと覚えていて、シンビオスは幸せな気分に浸っていた。 その後、2回ほど助けてもらって、自分の中にあるメディオンへの想いを、シンビオスは自覚していった。----確信したのは、アスピアでだ。自分に剣を向けたメディオンの姿に胸を痛めると同時に、その凛々しさにシンビオスは、 ----彼になら殺されてもいい と、陶酔の境地で思ったのだ。 そして、対峙しているときのメディオンの表情----苦しげに眉を寄せた苦悶の表情に、シンビオスはぞくぞくした。なんて艶っぽいのだろう。 以来、シンビオスにとってメディオンは、『色気のある人』として認識された。彼の作る様々な表情、何気ない日常の動作まで、シンビオスの目には上品な色気を湛えて見える。 そうなると、シンビオスも年頃の男の子なので、メディオンにキスやそれ以上のことをしたい、と思うようになった。 とはいえ、メディオンは年上で、しかもシンビオスより背も高いし、体格もよい。押し倒すのも容易ではないだろう。それどころか、逆にシンビオスの方が押し倒される恐れがある。 ----王子になら、嫌じゃないけど… 勿論誰ともしたことがないシンビオスなので、押し倒されるのには抵抗があった。押し倒す方なら、さほど怖くない(と思う)。 ----立ってるときは無理だな… シンビオスは考え抜いたあげく、メディオンが座っているときに、キスしてみることにした。 機会は、意外と早く訪れた。 今日はジュリアン軍が鍛錬のため、シンビオス軍とメディオン軍のメンバーは待機していた。 昼食後、何もする気がおきなくて、食堂でぼんやりと座っていたシンビオスに、 「部屋でお茶でもどうかな?」 と、メディオンが(色っぽく)声をかけてきてくれた。 シンビオスに否やはない。 「----いただきます」 シンビオスは少し震える手で、紅茶の入ったカップを口に運んだ。ちら、と上目遣いでメディオンを窺うと、彼も同じようにカップを手に取っていた。 少し俯き加減で目を伏せている。金の長い睫毛が揺れていた。 シンビオスからはいつも見上げるばかりのメディオンの、見たことのない表情だ。シンビオスの胸は高鳴った。立ち上がって、傍に歩み寄る。 「----ん? どうしたんだい?」 メディオンが、座ったまま顔を上げて、シンビオスを見つめる。蒼い瞳に吸い込まれそうになりながら、 「…キス…していいですか…?」 シンビオスは訊いた。 メディオンは瞠目し、すぐに破顔した。 「いいよ」 瞼を閉じ、唇をシンビオスに委ねる姿勢になった。 シンビオスはメディオンの頬に手を当てて、薄く形のいい唇に、自分のを触れさせた。 メディオンの腕が、シンビオスの首を抱き寄せる。キスしているのかされているのか、シンビオスは判らなくなってしまった。ただ、メディオンの肩に腕を廻し、強く抱きしめた。 激しく長いキスの後、シンビオスはメディオンを見つめた。くつろげた襟元から覗く白い喉が誘っているようだ。シンビオスは唇を寄せた。 「----君のしたいようにしてごらん、シンビオス…」 少し----ほんの少し笑いを含んだ声で、メディオンがシンビオスの耳元に囁く。シンビオスは最早我を忘れて、その声に従った。 気が付くとベッドの上で、メディオンの広い胸に甘えるように、シンビオスは顔を埋めていた。 「----君、見かけに寄らず乱暴だね」 メディオンが、掠れた声で呟く。 「あ、す、すいません、メディオン王子。----痛かったですか?」 シンビオスは腕を伸ばして上体を起こすと、メディオンの顔を覗き込んだ。 「うん、まあね。やっぱり初めてだし」 「すいません…。つい夢中になっちゃって…」 俯くシンビオスの頭を、メディオンは優しく撫でた。 「うん。そうみたいだね。凄く可愛かったよ、シンビオス」 からかうような口調で言う。 「う…、そんな…」 今更ながら、シンビオスは恥ずかしくなってきた。すっかり頭に血が上ってしまっていたので、よく覚えていなかったのだ。唯一の記憶といえば、メディオンの表情や息遣いが、いつも以上に艶やかだったことだけで…。 「お、王子だって! 凄く…可愛…かったじゃ…ないですか…」 自分だけ言われるのは癪なので、シンビオスは反論しようとした。しかし、照れくさくて、途中で勢いが削がれる。 耐えきれなくなったのか、メディオンが吹きだした。 「もう、笑うことないでしょう!」 と言いつつ、シンビオスも笑う。 「----ああ、君は本当に可愛いね、シンビオス」 メディオンはシンビオスの頭を、再び自分の胸の上に横たえさせた。 「君になら何をされてもいい----とはいえ、今度は私の番だよ」 そのまま体を半回転させて、シンビオスを組み敷く。 「えっ、…え? おう…」 驚きの声を発するシンビオスの唇は、メディオンの唇に塞がれてしまった。 「----それとも、嫌?」 メディオンが悪戯っぽく囁く。 シンビオスはかぶりを振って、 「王子にならいいです」 メディオンの背中に腕を廻した。 |