遠征軍のメンバーの、シンビオスに対するイメージは常に一緒だった。
 「真面目」----ただの「真面目」ではなく、何かしらの強調語がついた。「生----」とか「嫌になっちゃうほど----」とか「今時珍しいくらい----」とか「クソ----」等々である。
 だが、ただ一人メディオンだけは、シンビオスの別の顔を知っていた。
 夜、メディオンの前では、シンビオスは『真面目な領主様』らしからぬ言葉や媚態を示す。
 無論、最初からこうではなかった。まだ誰ともそういう行為をしたことがないシンビオスは、初めのうちは酷くぎこちなかった。何度も愛し合うにつれ、だんだんと貪欲になっていったのだ。
 そして今夜も----、シンビオスは上気した頬をメディオンの胸に預けていた。まだ荒い呼吸を繰り返す薄紅色の唇は、つい先ほどまでメディオンへの想いをうわごとのように繰り返していたし、熱く震える体は普段の彼からは想像もできない振る舞いをした。
 そして、そんなシンビオスをメディオンは愛おしく思い、かつ喜んでいた。普段の彼----真面目で物静かなシンビオスからは想像もできない姿は、メディオンの前でだけ見せるものだからだ。
「君がこんなに大胆だなんて思わなかったよ、シンビオス」
 メディオンはしみじみと呟いた。
「自分でも信じられません」
 シンビオスは気怠げな声で応じる。
「でもきっと、あなただからです、メディオン王子。----他の誰にも、こんな気持ちにならないし、なりたくもないです」
 シンビオスの、こういった類の言葉を聴くのが、メディオンは何より嬉しかった。メディオン自身もシンビオスだけだから、シンビオスの方もそう思ってくれているのだと、何度でも確認して----幸せな気分になれる。
 だから、
「本当に?」
 と重ねて訊いたのは、もっとシンビオスの言葉を聴きたかったからで、深い意味も他意もなかった。
 シンビオスはそう受け止めなかったらしい。片肘をついて上体を起こすと、
「ぼくが信用できないんですか? メディオン王子。あなたは、ぼくが誰とでもこういう行為をするような、いい加減な男だとでも思ってらっしゃるんですか?」
 酷く怒った声で言う。
 メディオンも慌てて起きあがった。怒りを含んだシンビオスの、真っ直ぐにこちらを見つめてくる緑の瞳に目を合わせて、
「とんでもない! 君が誠実な人で、私のことを何より愛してくれてるのは、充分すぎるほど承知しているよ」
 臆面もなく言い放つ。
「ただ、私は君のその可愛い唇から、私への愛の言葉を聴きたかっただけなんだ」
「……………」
 シンビオスは気が抜けた様子で、メディオンの胸の中に倒れ込んだ。
「まったく、あなたときたら…。さっきあなたはぼくのことを言いましたけど、ぼくもあなたに言いたいですよ。----メディオン王子、あなたはまるで甘えっ子みたいですね」
 メディオンはシンビオスの体に軽く腕を廻した。
「うん。自分でも信じられないよ。きっと、君だからだ。他の誰にも、甘えたいなんて思わない」
「…本当ですか?」
 笑いを含んだ声で、シンビオスが尋ねる。さっきの仕返しだと気付いて、メディオンも笑った。
「おかしいな。さっきあれだけ、そのことを証明したはずだけどね?」
 シンビオスは顔を上げた。不思議な光を湛えた瞳でメディオンを見つめてくる。先ほどまでの怒りとはまったく正反対の感情が、ありありと見て取れた。
「もっと知りたいんです、王子」
 ほとんど吐息かと思える声で、喘ぐように囁く。
 メディオンはシンビオスの体に廻した腕に力を込めた。シンビオスが苦しげな溜息を一つ漏らす。触れ合った肌はお互いの体に生じた熱を感じ取っていた。
「シンビオス…。私ももっと知りたいよ」
 激しく押しつけられる柔らかい唇に、こちらも深く口付けを返しながら、メディオンはシンビオスをゆっくりと押し倒した。


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