シンビオスは悩んでいた。
 ある晩、ベッドでメディオンにキスされているうちに、なんだか心地よくなってきて、あろうことかそのまま眠ってしまったのだ。
 翌朝気付いて、シンビオスは穴があったら入りたい気分になった。必死で謝ると、メディオンはいつも通りの優しい笑顔を見せて、
「気にしなくていいんだよ、シンビオス。君も疲れているだろうからね」
 と言ってくれた。
 これが2週間前のことだ。
 以来、メディオンはシンビオスに何もしなくなった。いや、キスはしてくれるのだが、それ以上はない。
 怒っているのか、呆れられたのか、気を遣われているのか。
 その判断はシンビオスにはつかなかったが、どの場合でも解決策は一つしかない。
 シンビオスから誘う。
 しかし、それができるのであれば、こんなに悩んだりしない。他のことなら大胆な決断力と行動力で突き進むシンビオスも、こういう方面に関しては純情すぎた。
 ----だけど、王子ぐらいの若い男が(自分もそうだけど)、恋人と同じベッドで寝ていながら何もせずにいるのは、かなりの苦痛じゃないだろうか。それを考えると、やっぱりぼくから言い出した方がいいんだろうけど…。
 なんと言ったらいいのだろう。
 あからさまなことは恥ずかしくて口に出せない。かといって、婉曲的すぎると気付いてくれないかもしれない。
 考えれば考えるほど、どつぼに嵌っていくシンビオスだった。

 メディオンは、怒っても呆れてもいなかった。気を遣い、かつ落ち込んでいた。なにせ、キスした相手が寝てしまったのだから。
 シンビオスが疲れているのであれば、メディオンは彼に無理をさせたくなかった。とはいっても、我慢にも限界がある。
 ----あのシンビオスだから、間違っても彼の方から、というのはあり得ない。ここはやはり、私から誘うしかない。でも、また寝られてしまったら…。
 今度こそ立ち直れないかもしれない。
 メディオンは自信を無くしかけていた。

「----今夜は冷えますね」
 シンビオスはどこか落ち着かない様子で言った。
「そうだね」
 と応じたメディオンも、…上の空だった。
「…明日も早いし、そろそろ休もうか」
「そ、そうですね」
 ぎこちなくベッドに入った二人は、暫し無言だった。
「…あ、あの、王子」
「…シンビオス…」
 同時に言葉が出て、再び黙り込む。
「…なんでしょう、王子」
「君こそ」
「いえ、大したことじゃ…」
 シンビオスは言い淀んで、
「…王子は?」
「私の方も、大した話じゃない」
 メディオンも煮え切らない口調で答える。
 ----やっぱり駄目だ。
 二人は内心嘆息した。
「…じゃあ、もう寝よう。----お休み、シンビオス」
 メディオンはいつもの通り、シンビオスに軽く口付けた。
「お休みなさい、王子」
 シンビオスは目を閉じた。メディオンもまた。それでいて、お互い相手が眠っていないことに気付いていた。
 シンビオスは、思いきってメディオンの方に体を寄せてみた。
「…どうしたんだ?」
 メディオンが固い声を出す。
「寒いんです…」
 シンビオスはそれだけしか言えなかったが、メディオンはちゃんと察してくれた。シンビオスを抱き寄せてくれる。

 そうして、二人は2週間分をしっかり取り戻した。お陰で翌日には、仲良く欠伸を連発していたのだった。


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