一週間振りに逢うシンビオスは、どこか違って見えた。
 いつもと同じ可愛い笑顔、優しい声、穏やかな仕草。だが、確かにどこかが違っている。
「----どうかしましたか?」
 あまりじっと見つめすぎたのだろう。不思議そうに小首を傾げて、シンビオスが訊いてきた。頬が少し染まっている。
「あ。いや、----なんでもない」
 取り繕うように、メディオンは軽く微笑んでみせた。
「そう…ですか」
 シンビオスは納得していないようだったが、すぐに気を取り直した様子で、
「----じゃあ、部屋に行きましょう」
 と、メディオンの腕に自分のを絡め、引っ張るように歩き出した。これもなじみのある行為だ。なのに、メディオンの違和感はいっそう強くなった。
 ----いったい、何が違うんだろう?
 シンビオスの態度にはまったく不自然なところはない。とすると、外見上の変化だろうか。たとえば髪を切ったとか、太ったとか痩せたとか、あるいは背が伸び----
「----ああ、そうか!」
 いきなりメディオンが叫んだので、シンビオスはびく、と足を止めた。
「な、なんですか? メディオン王子。いきなり…」
 大きい目を更にまん丸くして、メディオンを見上げる。
「うん、いや、----ちょっと…」
 ちょうどシンビオスの部屋の前まで来ていたので、メディオンはシンビオスを部屋の中に連れ込んだ。そしてやおら抱き締める。
 シンビオスに否やはないが、さっきからメディオンが突拍子もないことばかりしているため、さすがに戸惑ったようだ。
「ちょ…っと、王子----」
 声も身も硬くなっている。
 メディオンはシンビオスの顔を仰向かせて、
「----ああ、やっぱり」
 柔らかく微笑んだ。
「シンビオス。背が伸びたんだね」
「----はい?」
「いや、だってほら。前は、こうすると君の頭はこの辺までだったのに、今はここまで来ている」
「…ああ、そういえば…」
「今日最初に君を見たとき、何か違って見えたんだけど、----そうか、背が伸びたんだったのか」
 一人で納得げに頷くメディオンを見て、シンビオスは笑った。
「なんだ。----ぼくの方こそ、王子がずっと変だったから何事かと思ってたんですけど…、そういうことでしたか」
 こちらもやっと納得して、安心したようにメディオンにぎゅ、と抱き付く。
 メディオンは、シンビオスの、以前より近くなった唇に口付けた。
「----うん。キスもしやすくなった」
「じゃあ、もう一回…」
 甘く囁いて、今度はシンビオスの方から唇を寄せていった。

「----だけど、1週間でこれだけ伸びるなんて。自分でもびっくりです」
 シンビオスが言った。
 二人はソファに落ち着いて、シンビオスの淹れた紅茶を飲んでいる。
「成長期なんだろうね。私も君ぐらいの歳の時に一気に伸びたもの」
「そのうち、メディオン王子よりも高くなるかもしれませんよ」
 シンビオスはカップをテーブルに置くと、
「そうしたら、こんなこともできなくなるかも」
 メディオンの膝の上に馬乗りになった。
「そうなったら、私が君の膝に乗るよ」
 メディオンはそう言うと、その台詞に自ら笑った。
 シンビオスも吹き出して、
「えー、それはちょっと…、…勘弁してください」
 笑いながら、メディオンに抱き付いてくる。
 メディオンはシンビオス柔らかい髪を撫でた。
「----いつまで笑ってるんだい?」
「だって、王子が変なこと言うから…」
 シンビオスの震える肩を掴んで、メディオンは自分から引き剥がした。
 以前は少し下にあったシンビオスの瞳----メディオンの心を捕らえる輝く瞳が、今はメディオンの瞳と真っ直ぐに向き合う位置にある。
「もう、シンビオス。いい加減笑い止まないと----」
 柔らかい唇に指を当てて押さえ込むと、シンビオスはやっと笑うのを止めた。悪戯っぽくメディオンを見つめてくる。舌が、メディオンの指をちろ、と嘗めた。
 メディオンは指を離した。代わりに唇で、シンビオスの舌に触れる。
 それから----いつも通りの濃厚な時間が、二人の間を流れていった----。


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