また、夜が来る。
 シンビオスは恐れていた。
 行為自体は嫌いではない。メディオンは無理なことをせず、優しくしてくれる。
 メディオンのことを嫌いなわけでもない。むしろ、好きだからこそ許しているのだ。
 ただ、自分を失うのが恐かった。自分が自分でなくなる、あの感覚が。
 子供の頃から、シンビオスはいつでも冷静にいるようにと躾けられた。そのため、どんな異常事態においても、的確な判断をくだしてきた。
 それが----。
 たった一人の人が自分にする行為。それだけで、判断力も理性も謹みも流れ出てしまう。
 そして、心のどこかでそれを心地よく感じてしまうことも、シンビオスは恐ろしかった。自分の中にこんな感情があるなんて。
 メディオンは、シンビオスを安心させるように優しい微笑みで、それでいいんだよ、と言った。
 それでいい? 本当に?
 メディオンは頷いた。私をごらん、シンビオス。私だって、自分の中にこんな激情が潜んでいるとは、君に逢うまで知らなかったよ。
 その言葉よりも、表情の方に心を奪われた。シンビオスは、メディオンから目を離せぬまま、恐くないですか、と訊いた。
 恐いよ。メディオンはすぐに答えた。言葉にそぐわない表情は変わらぬまま。恐くて、でも、それが楽しいんじゃないか。
 恐いのが楽しいんですか?
 メディオンは目を閉じ、首を横に振った。そうじゃなくて、つまり、そういう状態でいるのが楽しいんだよ。自分を忘れるときは、相手のことで一杯になってるときだから。
 シンビオスは、メディオンの言葉を繰り返した。
 相手のことで一杯…。
 ああ、だからシンビオスも恐れながら、喜びを感じていたのだ。メディオンのことしか考えられなくなる。それと同じに、メディオンも自分のことだけを想ってくれるから。
 でも、とシンビオスは呟いた。きっと、貴男と離れられなくなる。それが恐い。いつか、貴男を失うときが来…
 言葉と一緒に、メディオンに唇を塞がれた。あの感覚がシンビオスの全身を包む。心地よくて、幸せで、恐い…。
 唇を解放されたときには、既にシンビオスは心を吸い取られていた。
 目の前で、メディオンが微笑んでいる。自分も同じ表情、同じ瞳をしているに違いない。熱に浮かされたような頭で、シンビオスはぼんやりと考えた。
 メディオンはシンビオスの頭を抱き寄せて、そんな心配はしなくていいんだよ、と囁いた。君を決して離したりしないから。
 耳に忍び込んでくる声は酷く甘い。何もかもを忘れさせてくれる。
 そう、何もかも忘れて。
 ただ、相手のことだけを想う。相手のことだけ見つめる。相手のことだけを感じる。
 甘く激しい、陶酔のとき。


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