急がなければいけない。
 このままでは、シンビオス軍、メディオン軍共に両倒れになってしまう。
 ジュリアン軍のメンバーは全員が同じ思いでいたが、中でも大将であるジュリアンは、他のみなが知らない理由で気を急かせていた。

 ジュリアンがメディオン軍に合流したばかりの頃。
 メディオンがシンビオスに対して特別な感情を持っていると、ジュリアンはすぐに看破した。なにせ、それまでシンビオス軍にいたジュリアンに、シンビオスについてどんな些細なことでも、メディオンは聴きたがったのだ。更に、その話を聴いているときの表情----5歳の子供だって、メディオンの想いに気付くだろう。
 ある日、ジュリアンは嫌みではなく、
「あんた、本当にシンビオス殿のことが好きなんだな」
 メディオンにそう言った。
「まだ、数回しか会ったことがないのに、どうしてそんなに想えるんだ?」
 思いがけず、メディオンは微笑した。
「自分でも不思議なんだ。でも、どうしようもなく彼に惹かれてしまう。----どうしてだろうね? 私にも解らないよ」
「まあ、確かにそういうもんかもな」
 ジュリアンは呟いた。職業柄、そうした例は沢山目にしている。
「だけど、私は多くは望まないよ。彼に、私と同じ感情を求めることはできない。多分、彼にとっては、私はただの友人だろう」
 辛い現実を口にするには、メディオンの口調は淡々としていた。
「それでも、私は満足だ。----ただ、もし彼に嫌われたり軽蔑されたりすることがあったら…、死ぬよりも辛いよ」

 ----あのクソ皇帝め。
 ジュリアンは心の中で、思いっきり毒づいた。
 メディオンの気持ちも知らず、なんて残酷な真似をするのだろう。----いや、ある程度は知っている筈だ。ただ、それがどの程度の想いなのか、皇帝には想像もつかないのだろう。本気で誰かを愛したことのない皇帝には。
 メディオンが今、どんな思いでアスピアまで進んでいるのかと考えると、ジュリアンはいたたまれなかった。
 だからこそ、急いで救わなければいけない。
 そして、知らせなければいけない。ジュリアンしか知らない事実を。
 シンビオス軍にいたとき、ジュリアンはシンビオスと、メディオンについてまったく同じ話をしていた。
 誰にも言わないで、とシンビオスに口止めされていたので、ジュリアンは黙っていた。メディオンだって、ジュリアンから聴かされるより、シンビオス本人の口から告げられた方が嬉しいだろう、と。まさか、こんな事態になるとは思ってもいなかったのだ。
 メディオンのことを話すときのシンビオスの瞳と、シンビオスのことを話すときのメディオンの瞳。それはまったく同じ輝きを持っていた、と思い出しながら、ジュリアンはアスピアの門をくぐった。


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