鍛錬のあと身を清めてすぐ、シンビオスはメディオンの部屋に行った。 軽くノックすると待つほどもなくドアが開いて、メディオンの優しい笑顔が覗く。 「お疲れさま、シンビオス」 労りの言葉に迎えられて、シンビオスは部屋の中に足を踏み入れた。 「疲れました」 言いながら、メディオンに凭れるように抱き付く。 「少し、休ませてください」 メディオンはシンビオスの体を穏やかに抱きとめた。 「いいよ。好きなだけ」 抱えるようにして、シンビオスをソファまで連れて行く。自分の膝の上に座らせた。 シンビオスはメディオンの胸に頬を押しつけて、目を閉じた。やはり、ここが自分にとって一番落ち着く場所だ。メディオンの心臓の音、抱き締めてくれる腕の感触----強すぎず弱すぎず、ちょうどいい力加減でくるみ込んでくれる。髪や頬を撫でてくれる手も温かくて気持ちいい。 ふと顔を持ち上げられて、唇を親指でなぞられる。その後にメディオンの唇がきた。激しいものではなく、あくまでも優しいキスだ。シンビオスを必要以上に高ぶらせないようにという、メディオンの気遣いである。もう少し経ったらシンビオスもメディオンを欲するだろうが、今はまだ鍛錬の疲れが残っている。 メディオンの腕の中でこうしてくつろげば、それだけ回復も早い。 完全な眠りに入る前の、あの心地よいまどろみの中に、シンビオスはいた。メディオンも敢えて声をかけず、ただシンビオスを抱き締めている。 ノックの音で、シンビオスは眠りから覚まされた。 「メディオン様、夕食の時間ですぞ」 キャンベルの声がドア越しに聞こえる。 「すぐに行く」 メディオンは応えて、シンビオスを見下ろした。 「起きちゃった?」 「はい…」 シンビオスはまだぼーっとした頭で、 「もう夕食の時間ですか」 「うん。----大丈夫? まだ眠い?」 「いえ。そうでもないです」 シンビオスはメディオンに凭れていた身を起こした。体を包み込んでいてくれたメディオンの腕が解かれる。そのまま腰に回された。 「それより、いつもより早くないですか?」 シンビオスは大きく伸びをしながら言った。 「うん? 何が?」 「夕食ですよ」 「いや。いつもと同じ時間だよ?」 メディオンの不思議そうな顔を見て自分も不思議に思ったシンビオスは、壁掛け時計に目をやった。 「え、もうこんな時間なんですか?」 メディオンの部屋に来てから、もう3時間も経っている。 「----ああ、ぼく、寝ちゃったんですね」 自分ではほんのちょっとまどろんだだけだと思っていたのだ。それにしてはすっきりした気分だし、疲れも癒えているのが謎だったのだが、これで合点がいった。 「うん。凄く気持ちよさそうに寝てたよ」 メディオンがシンビオスの頬をつつく。 「あ、じゃあ、メディオン王子、ずっとぼくのこと…」 ずっと膝の上に乗せて抱き締めていてくれたのだ。動かしたら起きるかもしれない、と気遣ってくれたのだろう。 「す、すいません。----脚、痺れてませんか?」 「大丈夫だよ」 メディオンは笑った。 「----それより、疲れは取れたかい?」 「はい、もうすっかり。ありがとうございます、メディオン王子」 シンビオスはメディオンにキスした。感謝の気持ちと、何より情熱のこもった長く激しいキスだ。 「----こんなことができるくらいです」 熱く囁く。 メディオンも、今までとは違う種類の笑みを、端麗な顔に刻んだ。 「そう。----じゃあ、後で、ね」 「はい。----後でゆっくり」 シンビオスはメディオンの膝から降りた。 「行きましょう。お腹空いちゃいました。『腹が減っては----』って言うでしょう?」 メディオンも立ち上がって、 「そうだね。----じゃあ、沢山食べないとな」 と呟く。 「確かに、戦みたいなものかな?」 「…何か言いました?」 「いや、なんでもないよ」 「?」 シンビオスはちょっと小首を傾げたが、 「----とにかく、早く行きましょう。時間が勿体ないです」 メディオンの腕を取る。 二人の心は既に食事の先にあること----二人きりになれる時間へと飛んでいた。 そして、どれくらいの時間が流れただろう。 シンビオスは再びメディオンの腕の中にいた。心地よい疲れが全身を気怠く支配している。 「----疲れていたのに、無理をさせたね」 メディオンがそっと囁く。 「いいえ、ぼくの方こそ…。王子、明日鍛錬なのに…」 シンビオスはメディオンの頬に口付けた。本当はまだメディオンを求めている。だが、あまり負担をかけては、明日の鍛錬に支障をきたす可能性がある。 「いや、大丈夫だよ、このくらい」 メディオンは、そっとシンビオスの裸身を抱き寄せた。 「それより、君が心配だ」 「ぼくも…、まだ平気です」 シンビオスはメディオンの胸に頬を押しつけて、 「もし、王子もまだ大丈夫なら…」 「うん」 メディオンの手がシンビオスの頬を包み、仰向かせる。そして、----お互いを求め合う時間が、また動き始めた。 |