この半月ほど、フラガルドでは寒い日が続いている。こうなると、朝ベッドから出るのに、相当の決心と勢いがいる。
 生真面目で職務に忠実なシンビオスでさえ、もう少し寝ていたいと思う朝があった。彼の場合、隣に恋人が寝ているのだから尚更だ。それでもそこはやはりシンビオス。寝過ごすような日はなかった。

 今朝もかなり冷え込んだ。しかし、幸いなことに休日なので、無理して起きることもない。なのに、シンビオスはいつもの時間に目が覚めてしまった。目覚ましは解除してあるので、どうやら身体に染みついた習慣のようだ。
 まだ寝惚けた目に入ってきたのは、味気ない壁だった。隣に寝ているはずのメディオンの姿がない。一瞬混乱したものの、すぐに思い当たった。壁側に寝ている自分が壁の方を向いている----すなわち、メディオンは自分の背中側にいるのだ。
 布団の中でもぞもぞと体の向きを変える。案の定、メディオンがそこにいた。彼もまた、こちらに背中を向けている。お互い背中合わせの体勢で眠っていたのだ。寝相などその日によって違うから、当然こんなこともある。
 メディオンの広い背中に、シンビオスはぴったりと貼り付いた。少し流れた長い髪から、いい香りがする。その金糸に軽くキスして、シンビオスは目を閉じた。起きるにはまだ早すぎる。
 その後10分ほど経って、今度はメディオンが目覚めた。背中に温もりを感じる。頭を巡らせて見ると、シンビオスがメディオンの背中にぴったりくっついて眠っている。
 メディオンは一旦身体を離してからシンビオスの方に向き直り、そのしなやかな身体を腕の中にくるみ込んだ。柔らかい髪に頬を寄せて目を閉じる。

 次にシンビオスが目を覚ましたのは一時間くらい後だった。目を開けると、背中を向けていたはずのメディオンが自分を抱き締めている。まだ半分寝惚けた状態で、目の前のメディオンの寝顔を眺める。程なくメディオンが目を覚ました。
 目を瞬かせるメディオンに、シンビオスは声をかけた。
「おはようございます、メディオン王子」
「----おはよう、シンビオス」
 ここで、軽くキスを交わす。
「今朝も寒いね」
「本当に。----今日が休みで良かったです」
「北の方はもっと寒いんだろうね」
「南もそれなりに寒いみたいですよ」
 ここで、またキス。
 他愛のない会話をしつつ、時折軽いキスを挟みつつ、ぬくぬくの布団の中でもっと暖かいお互いの温もりを、二人は楽しんでいた。
 最初は軽いキスだったのに、シンビオスの柔らかい唇の感触が心地よくて、メディオンの口付けはどんどん深いものになっていった。
 昨夜、明日は休みだから、とさんざんあれやらそれやらして、充分満足したはずなのだがその辺はやはり若さゆえだろうか。段々と熱を増してくるシンビオスの身体と、唇の間から漏れる艶やかな吐息に、メディオンはすっかり抜き差しならぬ状態になってしまった。
 密着しているため、シンビオスにもそれが伝わったようだ。顔を紅くしてメディオンを見上げる。その恥ずかしそうな表情でメディオンも判った。シンビオスも同じ状態になっている。
 メディオンは優しくシンビオスを組み敷いた。寒い朝に、充分すぎる温もりを二人は得たようである。


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