父と----皇帝と共にアスピニア共和国内を侵攻する。これが傍目にはどう見えるか、メディオンは痛感していた。 だが、皇帝を止めることなど誰にもできはしない。 以前は母の立場を慮って皇帝に従順だったメディオンも、実の父親ながらその冷酷さに疑問を抱きつつあった。 そして皇帝は、そういった反抗的な態度には敏感だった。 結局は、総てが皇帝の仕掛けた罠だったのだ。 侵略者の汚名を着せられ、母の命を握られたメディオンは、シンビオスを倒すように命じられた。 ----できない。私にはできない。 シンビオスを殺すなんて…。かといって、母を見殺しにもできない。 メディオンの中では、母もシンビオスも同じぐらい大切な存在だった。どちらかなんて選べないほど、2人共を愛していた。 ----…ならば…、私の取るべき道は一つしかない。 メディオンは心を決めた。 城壁の上にシンビオスが姿を見せた。哀しそうな瞳でこちらを見つめてくる。 「メディオン王子。侵略者が貴男だなんて…。とても信じられません! どうしてです?」 「…君とこうして再会するのは私だって心苦しいさ、シンビオス殿。だが、これも運命なんだ」 ----そう。こうするより他にどうしようもないんだ、シンビオス。 メディオンはシンビオスだけを見つめていた。ダンタレスの怒号もキャンベルの取りなしも、皇帝の命令さえ耳に入ってこない。 シンビオスが剣を構えた。凛々しく美しいその姿に、メディオンは見とれた。微かに微笑みさえ浮かべたかもしれない。 ----君の手にかかるなら本望だ。さあ、シンビオス、早く私を殺してくれ。 |