遠征から戻ってよりずっとアスピアに滞在していたメディオンが、この度ベネトレイムの許しを得て、フラガルドで暮らせるようになった。
 その知らせを持って、嬉しさにはち切れそうになりながら、2週間ぶりにメディオンはフラガルドにやって来た。
 夕食後、シンビオスの自室に続く応接室に2人で入るなり、メディオンとシンビオスは抱き合って部屋中を、跳び上がりながら踊り回った。
 やがてとうとう息が切れた2人はそのままソファに倒れ込むように座って、今後の生活のあれこれについて話し合うことにした。なにせ、違う国の違う家庭でそれまで育ってきたのだから、習慣だってそれぞれだ。
 最初は、朝何時に起きるとか、食事はどうだとかそういう方面だったが、夜寝る時間の話になったときに、その流れで、夜のーーーーことについて、曖昧なままではなくはっきりしよう、ということになった。
 と、いうのも、やはりシンビオスには負担が大きいからである。今までは、メディオンが遊びに来た日にーーーー2週間ごとだったから大丈夫だったが、これから一緒に暮らすからといって毎晩…ではさすがにけじめがないし、何よりシンビオスがきついだろう。
「じゃあ、今まで通り、2週間ごとにしようか?」
 メディオンが提案する。彼自身は本当はもう少し増やしたいのだが、自分の欲望よりシンビオスの体調の方が大事である。
 シンビオスは紅くなって目を伏せたまま、小さな声で、
「…いえ、あの…、…もう少し…」
「うん?」
 メディオンが思わず訊き返すと、更に顔を俯かせて、
「…週に1回くらいは…」
 と呟く。
 これは、『週に1回くらいは』負担ではない、ということか、それとも、『週に1回くらいは』メディオンが欲しい、という意味か。どうせなら、と、メディオンは後者の説を採ることにした。
「ありがとう、シンビオス。ーーーーじゃあ、暫くは週1回、休みの前の晩に、ということで様子を見よう」
 メディオンは優しく微笑んだ。
「それで、もしどうしても辛いようなら、またそのときに話し合おう。ーーーー私に気を遣わないで、辛かったらちゃんと教えてね、シンビオス」
「…はい」
 シンビオスは素直に頷いた。そういうメディオンの心遣いが嬉しい。心配をかけないように、言われたとおり無理しないようにしよう、と思う。
 しかし、若い2人が週1回で辛抱できるか、というと、正直無理な話だ。
 今までだって、逢えない間に、メディオンもシンビオスも、『何もしない』わけではなかった。大体、3〜5日が限度だった。
 独りでいる間でこれなのだから、これからずっと一緒で、しかも同じベッドで休むとなると、もっと大変なことになるだろう。
 なので、『その日』以外の日にどうしようもない事態になったときには他の方法で解消する、ということになった。
「ーーーー大体こんなところかな。後は、気付いたことはその都度話すようにしよう」
 メディオンは言って、ソファに並んで座っているシンビオスの方に、改まって身体ごと向き直った。
「これから、宜しくお願いします」
 ゆっくりと頭を下げる。
 シンビオスも慌てて姿勢を直して、
「い、いえ、こちらこそ、宜しくお願いします」
 同じようにお辞儀する。
 頭を下げたまま、シンビオスが目線だけ上げて見てみると、メディオンも同様にこちらを見ていて、2人の目がぱっちり合った。一瞬の間の後、どちらからともなく笑い合う。
 シンビオスの可愛らしい笑顔と、これからずっと一緒にいられるという幸福感に突き動かされて、メディオンはシンビオスの身体を抱き寄せた。
 シンビオスも素直に抱きついて、
「これからずっと一緒にいられるんですね」
「うん。そうだよ」
「嬉しいです、とても」
 シンビオスは顔を上げて、メディオンをひたむきに見つめた。
「ーーーーメディオン王子、愛しています」
「私も愛しているよ、シンビオス」
 メディオンはシンビオスに口付けた。唇を離して見つめ合い、
「…もう休もうか」
 メディオンが囁く。
「…はい」
 シンビオスは頷いた。

 今日はまさに『休みの前の晩』であり、尚かつ久しぶりにメディオンが来た日だった。
 逢えなかった日々の想いと、今夜は更に、これから一緒にいられるという喜びが重なり、メディオンは彼らしからぬ激しさでシンビオスを求め、シンビオスも彼らしからぬ大胆さでそれを受け止めた。
 結果、シンビオスはほぼ意識を手放す寸前だった。
 シンビオスの髪を宥めるように撫でながら、先ほど、あれだけシンビオスに無理をさせないようにと言っていた傍からこれか、とメディオンは反省した。しかし、シンビオスの表情に苦痛の陰はなく、むしろ正反対ーーーー頬を薔薇色に染めて至福感に溢れている。どうやらぎりぎり大丈夫だったようだ。
 これ以上はまずいかな、と思いつつも、メディオンはシンビオスのその表情に誘われるように、彼に深く口付けた。
「…ん…」
 シンビオスは小さく震え、その後身体の力が抜けた。今度こそ気を失ったらしい。
 そのしなやかな身体を腕に抱き、メディオンもまた幸せな気持ちで眠りについた。


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