離れて暮らす恋人達にとって、逢えない日々は終わりがないと思えるほどに長い。 久し振りに逢えた日は瞬く間に過ぎてゆく。 メディオンとシンビオスもまた、時間の流れに振り回される恋人達だった。彼らが逢えるのは週に一度、シンビオスが休みの日のみだ。若く、まだ始まったばかりの二人にとっては少なすぎる時間だ。 今日は平日で、いつもならメディオンはアスピア、シンビオスはフラガルドでそれぞれの生活を送っているはずだった。だが今シンビオスはアスピアのメディオンの部屋にいて、しかも彼の膝の上に座っているのだった。ベネトレイムが、仕事の用事でシンビオスを呼び出したためだ。その話はとうに済んで、シンビオスは残りの時間をメディオンと過ごしている。 二人っきりなのをいいことに、メディオンとシンビオスは、亡命中の王子とフラガルド領主らしからぬ振る舞いを続けていたが、メディオンがふと窓の外に目を移した。 「ああ、もうすぐ日も沈むね」 「そうですね」 シンビオスは頓着せず、メディオンの顔を挟んで再び自分の方に向けさせた。頬や唇に小さい口付けを繰り返す。 「----そろそろフラガルドに戻った方がいいんじゃないか?」 シンビオスからのキスの嵐の合間に、メディオンは言った。 「まだ早いですよ。ベネトレイム様も、夕食を一緒にと仰ってくださいましたし」 シンビオスのキスは、メディオンの首筋にまで及んでいる。くすぐったさを堪えながら、 「でも、今夜は月もないし、暗くなってからじゃ危ないだろう」 メディオンは言葉を繋いだ。 シンビオスはキスを止めて、正面からメディオンの顔をまじまじと見つめた。 「メディオン王子。そんなに、ぼくに早く帰ってほしいんですか?」 「まさか!」 メディオンは慌てて、 「そんなはずないじゃないか! ----私はただ…」 「あ、そうか。解りましたよ」 メディオンの言葉にかぶせるように、シンビオスは人の悪い笑みを浮かべながら、 「この後、他の誰かと逢うおつもりですね? だからぼくを早く帰したいんでしょう」 本気ではなく、からかうつもりだと気付いたメディオンは、だから同じように微笑んで、 「そんなことを言うのはこの口かい?」 シンビオスの両の口角を、両手で挟むように軽く摘んで引っ張った。 「私には君以外いないと知っているくせに、シンビオス」 シンビオスは言葉で応える代わりに、熱い口付けで応じた。 長いキスの後、うっとりと頭を肩に凭れさせてくるシンビオスの髪を撫でながら、 「私だって、できることならずっと君といたいんだよ」 メディオンは囁いた。 「ただね、シンビオス。夜道は危ないからね。モンスターだって夜盗だって出るし…、----何を笑ってるんだい?」 「いえ…、----メディオン王子がぼくのことをそんなに心配してくれてるのが、とても嬉しいんです」 笑顔のまま、シンビオスは答える。だが、純粋に喜んでいるだけの表情ではない。それを見て取ったメディオンは、 「それだけじゃないだろう? まだ何か隠してる顔だ」 更に追及した。 シンビオスは、堪えきれないように笑い出した。 「だって王子、----ぼくがその辺のモンスターや夜盗にやられるとお思いですか?」 「あ----、そうか、そうだったね」 メディオンは決まり悪そうに苦笑した。 「君が歴戦の勇者だってこと、すっかり失念していたよ。ごめん、シンビオス」 シンビオスはメディオンにぎゅ、と抱き付いた。 「いえ。----心配してくださって、ありがとうございます」 メディオンもシンビオスの体をきつく抱いた。 「そうとなれば、今夜はぎりぎりまで帰さないよ」 「はい。----嬉しいです」 ----とはいえやはり非常識にならない時間に、アスピアを出ねばなるまい。一分一秒が光の速さで過ぎていく。『時が止まればいいのに』とはよく聴くフレーズだが、メディオンとシンビオスはまさにそれを心で、そして体で感じていた。 |