「君の傍にいたい」とメディオンに言われたときのシンビオスの反応から、メディオンは彼の気持ちを察した。
 今まで、冗談交じりに抱きついたり、あまつさえ同じベッドで寝てたりしたのに、シンビオスはメディオンに対してまったく警戒していなかった。
 それで、メディオンは半ば諦めていたのだ。シンビオスはただの友人としてしか、自分のことを見ていない、と。
 だから、今回のシンビオスの反応には驚いたし、嬉しくもあった。もう、遠慮する必要はない。寝る前に、笑い話をする必要もない。
 そもそも、少しでも色っぽいムードを排除しないと、シンビオスと同じベッドで寝ていて、何をするか自分でも不安だった。わざとくだらない話ばかりして、自分を抑え込んでいたのだ。
 そんな無理を、いつまでも続けられるわけがない。
 そろそろ限界だ、と感じていたところに、ひょんなことからシンビオスの本心を知ることができた。あれから、シンビオスは落ち着かない様子で、メディオンから目を逸らせている。頬が微かに紅い。
 夕食後、部屋に戻ってきて、メディオンは今しかないと思った。自分の想いをシンビオスに伝え、シンビオスの気持ちを確認するのだ。
「…シンビオス」
 メディオンはそっと声をかけた。
「は、はい」
 思った以上に、シンビオスは緊張しているようだ。静かに声をかけたつもりなのに、飛び上がりそうになっている。
 少し、落ち着かせた方がいいだろう。かくいうメディオンも、いつも以上に緊張していた。
「ハーブティでも淹れようか」
 メディオンは水の入ったやかんを火にかけた。ポットとカップを出す。
「あ、ぼくがやります」
 シンビオスが急いでやってくる。
「いいんだよ。君は仕事で疲れているんだから。向こうで座っておいで」
 メディオンは言って、シンビオスの肩に手をかけた。いつもしていることだし、メディオンは特に深い意味はなくしたのだが、シンビオスにとっては違ったようだ。一瞬、体を強張らせたのが感じられた。そういう反応をされると、メディオンもつい意識してしまう。
 向こうで、と言っておきながら、シンビオスの肩からメディオンは手を離せなかった。どこにも行ってほしくなかったのだ。
「あ、あの、王子、手を…」
 シンビオスが戸惑ったように呟く。行かせたくない。そう思った瞬間、メディオンはシンビオスを抱きしめていた。
 腕の中で、シンビオスの体が震える。
「お、王子…。また、そんな冗談…」
 かすれた声で、シンビオスが言う。
 冗談ではないことを判ってもらうため、メディオンはシンビオスに口付けた。あるだけの想いを込める。
 唇が離れると、
「----どうして…?」
 シンビオスが呟く。非難している調子ではない。むしろ、何かを期待しているような…。
「君が好きだから」
 メディオンはシンビオスの髪を撫でた。
「君も、私のことが好きだろう?」
「…好きです…」
 小さく、シンビオスが答える。
 やかんが、ぴー、と音を立てた。
「…あ、お湯が沸いたね」
 メディオンは、ポットにお湯を注いだ。それとカップを持って、ソファに移動する。
「私達二人とも、これを飲んで少し落ち着いた方がいいようだ」
「ぼくはともかく、王子は落ち着いてるでしょう?」
 シンビオスがちょっと首を傾げる。
「私が落ち着いてるって? とんでもない! 誤解だよ、シンビオス」
 メディオンは苦笑した。
「君といるときは、私はいつも緊張しているんだよ。だから、毎晩笑い話をしてたんだ」
「…え?」
「つまり、自分の理性を保つためにね」
「…気が付きませんでした」
 シンビオスは顔を伏せた。
「ごめんなさい。そんなに気を遣わせてしまって…」
「いや。君が謝ることじゃない」
 メディオンは明るい口調で言って、カモミールティをカップに注いだ。それをシンビオスに差し出す。
 礼を言って受け取ったシンビオスは、
「でも、ぼくは王子の気持ちに気が付きませんでした。自分の気持ちにも…。もっと早く気が付いてたら、王子に余計な負担をかけずに済んだのに」
 メディオンは隣に座るシンビオスの肩を抱き寄せた。
「そんなに気になるなら、…今夜から埋め合わせしてもらおうかな」
「え?」
「今夜からは笑い話じゃなく、違うことをしよう、って」
「……………」
 見る見る紅くなるシンビオスの頬に、メディオンは笑いながらキスした。


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