〜やきもち〜 し〜んと静まり返った室内。 普段なら考えられない静寂っぷりに、シンビオスはため息をつく。 「・・・如何なさったんですか。先ほどから・・・。」 言葉を投げかけている相手は、”恋人”のメディオン。 椅子に座って、窓から外を見つめたまま微動だにしなければ一言も口にしない。 (全く・・・こうなったらキャンベル殿に聞くしかないなぁ) その判断が限りなく間違っている事を、シンビオスはまだ知らない。 メディオンが、半ばムスッとした感じでダンマリを決め込んでいるのには、とりあえずちゃんとした・・・か如何かは別として、理由がある。 事の発端は、今朝にさかのぼる。 珍しく寝坊をしてしまったメディオンが、会議の為にやってくると言うシンビオスに会えるのを楽しみにしていた時。ふと窓から眺めた中庭で、仲睦まじい雰囲気で語らいながら歩くシンビオスと・・・メディオンの兄的存在ともいえる、側近のケンタウロス、キャンベルの姿を発見してしまったのだ。 『シンビオス殿がいらしたら、すぐに言ってくれ。』 口が酸っぱくなるくらいに言っておいたのに。 シンビオスは、領主としての任が忙しく、なかなか会えない。だからこそ、今日と言う日を誰よりも心待ちにしていたのに。何故そんな自分を差し置いて、2人きりで仲良さげに中庭を散歩しているのだ。大体シンビオスもシンビオスだ。何故、よりにもよってキャンベルなのだ。 ・・・そう。要するに、メディオンはキャンベルと一緒に楽しそうに語らっていたシンビオスの姿を見て、やきもちを妬いてしまったのだ。 直後、猛ダッシュで駆け寄ってきたメディオンの姿に、シンビオスもキャンベルも何事もなかったように・・・実際何もないのだが、おはよう御座いますと微笑まれてしまったものだからメディオンも立場がない。 「・・・メディオン殿。私はそろそろ戻らなくてはなりません。職務が残っておりますので。」 「・・・・・」 いつまでもアスピアに留まっているわけにも行かない。 冗談抜きで、領主と言う仕事は、多忙を極めるのだから。1分1秒でも惜しいのだ。 「・・・いつから、ですか?」 「はい?」 「いつからの関係なんですか?」 「・・・はい??」 「誤魔化さないで下さい!キャンベルとです!!」 「はい?????」 キャンベルとの、関係。そんなモノ、メディオンと出会ってから親しくなったに決まっている。 自分の知らないメディオンの事を聞いたり、キャンベルの知らないメディオンの事を話したり。 けれど、どんなに考えても、メディオンが叫んでいる意味が判らない。 「一体何を・・・」 「貴方は、私よりもキャンベルを選んだ・・・けれど、何故よりにもよって側近である彼なのですか?」 「いえ、ですから・・・」 「確かにキャンベルはとても良い、優しい男です。朗らかで、包容力があって、実直です。けれど・・・」 「あの、メディオン殿?」 「シンビオス殿、貴方に今一度お聞きしたい。」 「はぁ。」 と、言うか。聞きたいのはこっちの方なのだが。 シンビオスはそう思ったけれども、やけに真剣な、深刻な眼差しのメディオンに押し黙る。 「貴方が本当に愛しているのは、一体誰なのですか?」 「・・・はい?」 「貴方が心から愛しているのは、一体何処の誰なのですか!?」 「そんなの・・・今、私の目の前にいる、貴方に決まっているじゃないですか。」 きっぱり。 何の迷いも躊躇いもなく、即答。・・・されて、メディオンはぴしっと石化してしまった。 「一体如何なさったのですか?」 少し呆れたような声音で、シンビオスが問うと、メディオンはハッと我に返り顔をみるみる内に真っ赤にして答えた。 「だ、だ、だって・・・キャンベルと仲良く2人きりで話しをしていたじゃありませんか。」 「貴方だって、ダンタレスと2人で会話くらいする事ありますでしょう?」 フラガルドで、まだシンビオスの仕事が一段落していなくて、それを待っている間に確かにダンタレスと話をしていた。ダンタレスとだけじゃない。マスキュリンや、グレイスだったりもする。 「で、でも、何故私を起してくださらなかったのですか!」 「気持ち良さげに寝てらしたので。」 「わっ・・・私は、貴方に会えるのをとっっっっっても楽しみにしていたのですよ!」 「ええ、私もとても楽しみでした。」 「な、なのに何故私以外の者と・・・」 らしくもなく、目頭が熱くなってくる。 幼い頃から兄の様に接してきたキャンベルは、それはそれは信頼していて、唯一無二の存在。自分を理解して、支えてくれたのは彼だけだったから。けれど、いくらそんなキャンベルにだって、シンビオスだけは譲れないのだ。 「・・・メディオン殿・・・」 「はい!?」 「もしや・・・妬いてらっしゃるのですか?」 「・・・―――っっ!!!」 伺いたてるような眼差しに、メディオンは息詰まる。 そんなメディオンの様子が、自分が問いた事が図星だった事に気付いて、シンビオスは小さくため息をついた。優しく微笑みながら。 「貴方でも、そんな事あるんですね。」 「え・・・?」 「私とキャンベル殿が話しをしていたのを見て、やきもちを妬かれたわけですか。嬉しいですけど、それって私を信じていないってことですよね。」 「そっ、そんな事はないっ!!」 「少しショックです。私は心から本当に貴方を想っているのに・・・」 言いながら、ちょっとだけ泣いている”フリ”なんてしてみる。 すると、メディオンは慌ててシンビオスの肩を抱き、わたわたしながら弁明した。 「ち、違うんだ!本当に、そういうんじゃなくて!!いや、その、だから・・・」 「だから?」 「ほ、他の人に君を奪われるのが嫌で・・・その・・・」 「・・・心配性ですね・・・貴方も。」 未だ嘘泣きだった事に気付かないメディオンはさておいて。やれやれと小さく息をついたシンビオスは、へたへたと力なく床に座り込んでしまったメディオンの前に腰を下ろして、不安そうにこちらを見つめているメディオンの頬に、軽く、触れるだけのキスをした。ほんのりと赤くなりながら。 「・・・いつも、貴方が私に向かって使う台詞を、今使わせていただきますね。」 「え・・・?」 「カワイイ人ですね、貴方は。」 「〜〜〜〜〜っっ」 目の前でこつん、と額を合わせながら、微笑んだシンビオス。 そのあまりに綺麗で至近距離の微笑みに、メディオンはカーッと更に顔を赤くして、仰け反るように立ちあがった。普段、あんなに冷静で落ち着いたメディオンに、こんな一面があった。 シンビオスは初めて見たそんな姿に、クスクスと笑ってしまった。 「では、私はこれで失礼しますので。」 「――っ、あ、シ、シンビオス殿!」 「何ですか?」 「あの、その・・・私も、私も貴方だけを愛していますから!!」 突然の言葉にきょとんとしたシンビオスだけれども、一生懸命なメディオンの姿に、プッと吹き出しながら。 「判っています、勿論。」 一言を残し、会釈をして退室していった。 結局、メディオン、シンビオス共に、互いの気持ちを再確認して終った一件だった。 Fin あゆみさんのコメント どうですか、みなさん! |